宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

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スペシャル鼎談 第三章「純愛篇」監督・羽原信義×シリーズ構成・福井晴敏×脚本・岡秀樹

─本作の企画段階の時に三人でお会いしたそうですが、お互いにどのような印象を持たれましたか?

福井最初は嵐の予感でしたよ(笑)。まず、顔合わせをするということ自体、お互いに直前まで知らされていなかったので。

羽原呼ばれて行ったら福井さんがいらっしゃって。

 ● そこに行けば福井さんがいるっていうのは、直前に聞かされました。このドアを開けたらあの福井晴敏がいるのか⁉と思って入ったら、本当にいて、「うわ、本物だ」って思いました(笑)。

福井俺は羽原さんとのお見合いとは聞いていたけど、そこに岡さんが一緒に来ることは知らなかった。しかも、俺が出していた企画書とは全く関係なく、羽原さんと岡さん二人で考えたアイディアを持ってきてくださって。一応こちらの企画書に沿った方向で進むことになったんだけど、まだ序盤のことしか書いていない程度の内容だったから、二人から出てきたものの中で取り込めるものは取り込んでいこうという感じでしたね。

─その際は具体的にどのような話し合いをされたのですか?

福井二人はどうか分からないけど、俺はやっていけそうだとその日のうちに思って、飲みに誘いました。

羽原みんなで飲みに行ったのは良かったですよね。

 ● 飲みに行って、4時間くらい話していましたね。会議室を出る直前に偉い人から、福井さんの助手をやってくれないかって要請を頂いたんですけど、そんなの無理だと思っていたのでその場では返事をしなかったんです。それもあって飲みの場では福井さんと「ヤマト」を超えてもう少し違った色々な話をしてみました。

福井人生観とか色々ね。「人は死んだらどうなると思う?」って(笑)。今回のテレザートからのメッセージは、自分にとって死んだ大事な人の姿を借りてやって来るので、岡さんからのそのいきなりの問いかけに強く反応しましたね。若いうちはなかなか身近じゃない話だと思うんだけど、実は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下『2202』)のスタッフたちの平均年齢って、オリジナルの『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(以下『さらば』)のスタッフたちよりも高いんです。だから、お客さんの年齢も高くなっているし。でも、そういう市場に対して過去を懐かしむだけのものにするのではなくて、今のお客さんに対して作っていくんだという想いを共有できたのはすごく大きな収穫でしたね。

 ● 初対面の福井さんを捕まえて、「宇宙はどうなっていると思う?」とか、「人は死んだらどこに行くと思う?」とか真顔で質問攻めにしましたね。とにかくストレートにぶつけたんですよ。『さらば』をリメイクするとしたら、そこは避けては通れない部分だと思っていたので。目に見えない物事をどう捉えるのか?そこがまるで異なる人間同士だと、助手とはいえ多分うまくいかないなっていう感覚がありました。ただ、福井さんが書かれた『2202』の企画書を事前に読んでいたので、ぼんやりした期待値はあったんです。それでいざ福井さんの話を聞いてみたら、腑に落ちることがたくさんあった。そういう死生観を持った人とだったら一緒にやれるかもなって思いました。

福井うん、そうだね。死生観。

 ● 最初の頃は毎週金曜に集まって企画の方向性に関してざっくばらんに話していたと思います。3回目の時に全26話の構成を話し合ったんですが、その場で羽原監督から「ラストシーンの光景」についてイメージの開陳がありました。「おお!そんなものを思い描いていたのか監督!」という感じで驚きました。その日のミーティング後、福井さんと居酒屋にこもって「羽原監督のイメージするラストの画にたどり着くお話しの流れ」を話し合ったんです。延々6時間くらい?そこで一つの結論が得られ、福井さんが本格的に航路図を書かれ始めた。暫く待っていると4話分が届いて、また暫く待つと4話分が届くというような感じが何回か続きました。5ヵ月くらいの間に福井さんは最終回までの流れを完全に書き上げられました。

─シリーズ構成の福井さんと脚本の岡さん、それぞれの役割はどのように分担されているのですか?

福井元になるプロットを書き進めるのと並行して、岡さんがロングプロットという詳細なあらすじを書いてくれて、それを元にシナリオ制作も進めていました。

 ● 軍隊で言えば、福井隊長の作戦図(プロット)がまずあって、その作戦図を元に突っ込んで行って見えた風景(ロングプロット)を報告して、福井隊長の判断を仰いでから、30分の脚本を書きます。福井さんと羽原さんの二人からOKがもらえたらその「脚本ゼロ稿」を全体会議にかけ、そこで出た様々な意見を全て反映させた「脚本初稿」を作るのが福井さん。福井さんは頭から最後まで全部、徹底的に書き直されます。その間にぼくは、次のエピソードのロングプロットや叩き台となる脚本を作る作業に移ります。そういう分担で繰り返し繰り返しやっていました。

─羽原監督は脚本に関してはどのように関わられているのですか?

羽原僕は「面白い」と言いながら読んでいただけですね(笑)。

福井羽原さんからは意見をもらうっていう感じでした。

羽原ちょっと絵が浮かびにくいかなというところは意見をさせて頂きました。あとは、絵にした時にどうしても時間がかかるだろうと想像できるポイントは、尺の中に収まるよう相談して上手くまとめてもらっていました。

─以前、羽原監督と福井さんにインタビューさせて頂いた際、第二章に登場した「時間断層」は岡さんのアイディアだったとお伺いしたのですが、あのアイディアはどのように生まれたのですか?

 ●  僕が羽原さんにプレゼンした企画段階での時間断層は、人間が活動できる空間という設定でした。5000人くらいが浦島太郎になるのを覚悟で入って、地球の復興のために尽力しているという、もう少し明るい場所だったんです。ガトランティスに地球が占拠された後には、そこを根城にしたパルチザンの抵抗も予定していました。その時間断層という要素をこう使えばもっと活きると見抜いて引っ張り出してくれたのが福井さんでした。

─時間断層のアイディアを初めて聞いた時に福井さんは否定したという話もお伺いしましたが…。

 ● 時間断層に限らず企画書全体に「今、これをやる意味はない」とハッキリ言われましたね(笑)。僕もそう言われてカチーンときたので説明を求めたら、福井さんは待ってましたとばかりに身振り手振りを交えながら『2202』の話をし始めたんですけど、その話がとても面白かったんですよね。さすがだな、よく考えてらっしゃるなと感心してその気持ちを素直に伝えました。それでダメなものはダメと頭を切り替えていたところ、その翌々日に福井さんから電話が掛かってきて「時間断層を使いたい」と言われた。ちょっとリアクションが取れなかったです(笑)その電話で「時間断層を社会の暗部として使いたい」と説明されたんですが、それを聞いて「なるほど!」と膝を打ちました。古代が『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下『2199』)から地続きのキャラクターである以上、過去のシリーズよりも理性的な人物なのは間違いない。そのせいで、反乱覚悟の出航を先導する彼の姿というのはどうしてもイメージしづらかったんかったんです。そこに関しては羽原さんと意見が一致していたので、そのことを福井さんにもお伝えしていました。解決策はその場では出なかったんですけど、「時間断層」はその問題を乗り越える起爆剤になるかもしれないと感じました。世の中の歪みの真相を知った古代は今までになかった憤りややるせなさを抱え込むことに絶対なる。ならば動機付けを補強する材料になるんじゃないかと感じました。

羽原加えてガミラスとの癒着の部分にも上手く作用していますよね。

 ● 福井さんから「ガミラスも使っているんですよ」と言われた時に、なるほどと驚嘆しましたね(笑)。

─時間断層に関して、福井さんはいかがですか?

福井俺が思うに、「ヤマト」は常に時代と共にあった作品なので、今回も震災後の空気というのは外せない部分でしたね。それを表現するために上手く使いました。

─岡さんは他にもアイディアを提案されたと思いますが、どういったものがあったのでしょうか?

 ● アンドロメダの艦長に山南(修)を提案したのは僕です。土方の居場所が斉藤たちのいる第十一番惑星だったのでアンドロメダ艦長の席が空いていました。福井さんの企画書には近藤という新キャラクターを登場させたいと書いてあったので近藤の顔を想像してみたんですけど、『さらば』のあの艦長の顔しか出てこなかった(笑)。

羽原そうそう、全艦離脱の。

 ● 新キャラクターを作るってエネルギーを使いますよね。だったらそのエネルギーを、既存のキャラクターを深めることに注いだ方がいいと思いました。
将来的にもしかしたら山南がヤマトの艦長席に座る日が来るかもしれない。その時のための種蒔きをしてみませんか?と福井さんに提案した感じです。

─その提案を受けて、羽原さんと福井さんはいかがでしたか?

羽原『2199』での山南は飄々とした面がかなり強調されていたので、あの印象だけだととてもあの地位にいける人ではない感じがしました。ただ、すごく実力はある人なので、飄々としているという部分が上手く表現できたら間違いなく格好良いなとは思いました。見事にそういうシナリオになっていましたね。

福井あの山南像は岡さんが主に書いてくれて、あまり直した記憶はないですね。

 ● 福井さんが最初に書かれた企画書がちょうど第五話辺りまでの内容だったんです。五話はアンドロメダとの追撃戦が行われることくらいしか書かれていなかったので、割と自由にやらせてもらいました。あの時沖田艦長の精巧なレリーフが一体どこから来たのかという宿題が一つあって。アナライザーが亡き沖田艦長を偲んで作ったものという説と、山南が私物で持っていたものを与えたという二つの説があったんですが、最終的に山南説になりました。

福井ちなみに、沖田艦長の精巧なレリーフは、設定的には山南の私物ではなくアンドロメダの艦長席に祀ってあるというものでした。実際の軍隊で言うところの東郷平八郎みたいな位置付けで、半ば神社と化してあそこにある。外した後に色が変わっているのは芸が細かくてね。

羽原でも、新造戦艦であんなに色が変わりますかね(笑)。

福井時間断層だから、実は作られて10年は経っているんですよ。

羽原なるほど(笑)。

─制作中に様々なやり取りがある中で、印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。

福井ヤマト愛で言うと、岡さんが飛び抜けていて、次に羽原さん。愛の深さはイコール詳しさなんです。俺にとって二人はコンパスのような役割を果たしてくれました。二人が断じて向かない方向っていうのがやっぱりあって、そこには行っちゃいけないんだと気付かされました。俺だけだったら多分もっとそっちの方に進んで行っちゃっていたこともあったろうなと。

 ● 古代のように「断じて違う!」と福井さんに言い放ったこともあるんですけど、でも、それも第十話くらいまでのことでした。そこを過ぎる頃には足並みは揃いましたね。福井さんが考えていることを形にしないことにはこの企画をやる意味がないんだと骨身に沁みて感じるようになったので、余程のことでなければ言わないだろうし、第十話以降は多分言ってないと思います。第十話までの間で色々な探り合いがあって、それ以降はチームになっていたってことですよね。

福井その第十話はちょうど今回の三章の最後の話なんですけど。今までずっと走り続けてきた中で最初に訪れた箸休め回というのか。以後二度とない箸休め回(笑)。そこでそれぞれの振り返りがあって、俺の中でも思った以上に「ヤマト」っぽくなっている感じはしたんですよね。それは二人に色々と言われながら第十話に来るまでの積み上げで、自分の中でこうすればいいんだろうなという勘所が見えてきて。第九話で大冒険をして、その直後にその第十話だったのでその落差もあると思うんですけど。そういうところで『2202』がやろうとしている振り幅がみんなで共有できたし、あの第十話はそういう意味ではとても思い出深いです。そう言えば、第十話ってプロットが異様に長くて。

羽原そうでしたね(笑)。

 ● 第九話までで一回吐き出し尽くした感があったんですよね。「もう大団円みたいだけど実際にはまだ1話あります」って福井さんの構成メモには書かれていて。その後に独立した形で第十話だけ送られてきたので、すごく丁寧に書かれていたし、それを読んで僕なりに感じたことを書き込んでお渡ししたんです。そうしたら深夜に福井さんから「分かった! ヤマトはスポ根ものなんだ」っていう、ものすごく長い文章が僕と羽原さん宛にメールで送られてきて。

羽原はいはい。メールが来ましたね(笑)。

 ● あの夜の福井さんの熱はすごかった。なぜそう思ったのかという理由やスポ根のそもそもの定義を詳細に記したものすごい量の文章を深夜に送って寄越すんですよ。思い付いたから聞いて〜、みたいな(笑)。その文章をずっと読んでいくうちに、非常に腑に落ちるところがあったんですよね。

福井要はSFじゃないっていうところの再確認をしたんですよ。SFの設え(しつらえ)なんだけれど、スピリットはスポ根ものだっていう。スポ根ものになった時に、みんなが「ヤマト」っぽいって感じるんですよ。

 ● スポ根とは自分の人生とか世俗的な価値を自らの意思であえて封殺して、何かに対して我が身を滅ぼすような覚悟で貫き通した者だけが到達できる、その境地を描くものである……その時のメールにね、そんな意味のことが書いてあったんです。それを読んで、星飛雄馬(『巨人の星』の主人公)も、矢吹丈(『あしたのジョー』の主人公)も、岡ひろみ(『エースをねらえ!』の主人公)も、まさにその通りの生きざまだったなと同意しました。そこまで読んでふと思ったのは『さらば』の古代進も、そうした「道に殉じた人間」だったんじゃないか…ってことでした。『さらば』の最後でテレサが古代を助けて一緒に超弩級巨大戦艦に向かってくれるというあの構造は、貫き通した者にのみ人間以上の存在が微笑みかけた瞬間だったんだ…と。人事を尽くすとは何かということを語り切った物語が『さらば』だったんだ。中学校時代はテレサが一人で特攻すればいいのにとか、みんなでよく言っていたんですけど、歳を重ねた今だからこそ、そんな甘いものじゃないぞって実感として思えるようになりました。今の「ヤマト」ファンの方々も実感として思うことをそれぞれに抱えていらっしゃると思うんですね。『2202』はそこに訴えかけるものを作るってことなんだなと、福井さんの深夜のメッセージを見ながら改めて思いました。

羽原僕もスポ根で育っていますから、改めて考えたことはなかったけど、確かにそうだよなって納得しました。

 ● ただ、1980年代に突入すると子供ながらに世の中が冷めていったことを感じていて、「ヤマト」はもう古いのかと思っていましたね。

福井そういう熱と一緒に忘れ去られていった部分があると思いますね。『ヤマトよ永遠に』までは上り調子で来て、後継者に『機動戦士ガンダム』(以下『ガンダム』)が登場したことも関係はしていると思うけど、やっぱり「ヤマト」を日本人全体で受容する土壌そのものが段々と失われていったんだろうなと。

 ● 言ってみれば「ヤマト」は「プロジェクトX」だと思うんです。NHKの大ヒットドキュメンタリー番組だから皆さんよくご存じだと思いますけど。中島みゆきの主題歌が流れて字幕が画面を流れるところを想像してください。「焼けただれた地球」「人類絶滅」「保証なきイスカンダルまでの旅、14万8千光年」「それでも男たちは挑んだ…」…ほら、むちゃくちゃ盛り上がるじゃないですか。貫き通してやり遂げた男たちの話という意味では、「青函トンネルを開通させた男たちの話」と全く同じことですよ。やっぱり『ガンダム』とはタッチがちょっと違うんです。福井さんは『ガンダム』を、結局はロボットの腹の中の個人に帰結する物語と分析していて、確かにそれだと「プロジェクトX」にはなりにくい。対して『ヤマト』は一つの目的を追う集団の物語。「青函トンネルを開通させた男たちの話」と「ヤマト」の話はやっぱり通じるものがあるんだと思います。

福井みんなで何かをやり遂げるというね。でも、それも懐メロとして、ただの再演奏になってしまっては意味がなくて、それなら昔の作品をもう一辺観ればいい訳で。今回は基本の部分はきちんと押さえつつ、現代に生きて働いている人たちが抱えている葛藤や苦悩を反映させながら、手本なき時代にどう生きていくかを一人ではなく全員で探っていく話にしようと。一人で探っていくのは『ガンダム』なんですよ。「ヤマト」の場合はみんなでこの艦を推進させながら目的地に向かっていく。

羽原だからこそ、「情熱大陸」ではなく「プロジェクトX」なんですよね。

 ● どこか理想化された集団の在り方っていうのが「ヤマト」の基本線にはあるんじゃないかと。一人一人は色んな問題を抱えているけど、“小異を捨てて大同に就く”というような美しさをなくさない方がいんじゃないかと思いますね。

─第三章「純愛篇」ではそのタイトル通り、古代進と森雪、二人の“愛”が試されます。“愛”にも様々な形がありますが、この二人の“愛”はどんなものなのでしょうか?

福井当時の「ヤマト」はその時の言葉で表すと“ヤング向け”なので若き恋人たちの物語に当然なると思うんですけど、今回はお客さんがほとんど結婚されていて、さらに言えば子育てを終えているくらいの年齢になっています。そうすると理想化された若い男女の恋愛以上のものを求める傾向にあると思うんですよ。俺が子供だった頃の目線から見ても、当時の古代と雪はベストカップルとして理想化されていました。それを大人が観るものとして現代に甦らせるとしたらどうすればいいかと考えた時に、一番しっくりきたのは相手を思いやるということでした。この相手を思いやることの重さって若い時に憧れていた恋愛とは比べ物にならないくらい具体的な形として自分の中にあると思うんですよね。この二人は『2199』の最後で本格的に付き合いだしたからせいぜい3年かそこらの付き合いなんですけど、ある種何年も連れ添った夫婦に等しいような信頼関係にまで発展させてしまっても違和感なく観られるかなって気がしていました。第三章の中で古代と雪がある重要な決断を迫られるシーンがあるんですけど、そこでお互いを思いやる感じというのは長年連れ添った夫婦の感覚に近いんですよ。

羽原阿吽の呼吸ですね。

福井そうそう、恋人たちよりももっと重いというか(笑)。彼らがまだ20代って考えた時にちょっとどうかなって悩んだんですけど、でも、俺たちが観て胸を打たれるのはこういうお互いがお互いを思いやって行き違ったりするような話なんですよね。昔の心中ものは子供の頃に観ていてもつまらなかったんですけど、今改めて見返すと涙を流している自分がいたりして(笑)。やっぱり感性って変わる訳ですよね。だから、大人が観た時に胸を打たれるような愛の話にしようという想いはありました。

 ● 古代と雪はオリジナルシリーズの頃から異様にお互いのことを思い合っていましたよね。雪の人間ができ過ぎているんじゃないかと感じるところも多々あったんですが(笑)。それが歴史としてまずあるから、精神年齢的に多少行き過ぎていても大丈夫だろうと、福井さんの考えには全面的に賛成でした。

羽原僕は第二話の古代を迎えに来た車中での雪の叫びにやられてしまって、「雪、最高!」となってしまいました(笑)。第四話のエレベーターのシーンで、雪に向かって言ってはいけない一言を発してしまった古代が、第九話では雪のことを思ってある行動を取るんですよ。そのダメな部分を観ているだけあってより古代への思い入れが強まりましたね。

─第三章ではヤマトの波動砲問題が大きなポイントになってきます。それについてはどのようにお考えですか?

福井撃たないなんて嫌でしょ(笑)。それは大前提としてありました。ただ、岡さんは撃つのはまだ早いんじゃないかと。でも、俺は予告編の段階で次は撃つということを分からせないと、『2199』の続編だからずっと波動砲を撃たないんだと思われて、それがお客さんを減らすことに繋がってしまうのではないかと危惧していました。それで今回は絶対に撃つと決めて、そのために古代には泣いてもらおうと思いました。

 ● さっき言っていた「断じて違う!」と福井さんに噛み付いていたのがちょうどその頃ですね。色々な戦略を踏まえて福井さんの中ではそれがベストなタイミングで、そこで盛り上げられるドラマも必ず作れるという見通しがあったんだと思います。早いんじゃないか?と僕は思ったから意見したわけですが、でき上がったフィルムを観て、ここだったなと思いました(笑)。

羽原実は絵コンテの段階で撃たない方向でいくことも模索したんですけど、やっぱりしっくりこなくて。撃たないと古代が次に行けない感じがしました。

福井基本的に、俺らは撃ちたい人なんで(笑)。

 ● 俺は違うよ(笑)。

羽原その後も撃つ直前で止める絵コンテを描いたシーンがあったんですけど、福井さんと意見をやり取りして、最終的には撃つシーンを入れました。結果としては入れて良かったですね。

 ● まだ先の章でのお話なんですけど、『2202』の中で波動砲問題に決着が着くタイミングがいずれ来ます。形になりつつある物を観てきた身としては、ベストな流れになったと本当に思っています。

羽原第三章の波動砲を撃つシーンは、役者さんも非常に良い演技をしてくださって、絵の方も頑張って描いたので良いシーンになったのではないかと思います。

─改めて、第三章での見どころや注目ポイントを教えてください。

福井『2202』が向かう先は『さらば』なのか『宇宙戦艦ヤマト2』なのか、はたまたその両方でもないのかというところは第二章までだとまだハッキリしていないんですけど、第三章でようやくこれはこういう話をやろうとしているのかというところが薄ぼんやりと見えてくると思います。そういう意味で、第三章はターニングポイントになるので見逃せないですね。

 ● 第三章、とにかく最後まで席を立たないように。

羽原見どころはそうですね…、もう分からないです(笑)。

福井何だそりゃ(笑)。

羽原思い入れが強すぎて選べません。

─最後に、第三章の劇場上映を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。

福井一回観ただけでは分からない部分があるので、何度も観るには配信版やブルーレイ、DVD商品を買って頂いた方がいいですよ(笑)。1話30分毎に作っていますけど、俺の中では長めの一本の映画を作らせてもらっている感覚があるので、些細なことでも全てが伏線になっています。最後まで観終えたところでこれは間違いなく手元に置いておきたい作品になるので、最後にまとめて買うよりも、今のうちから買っておいた方がいいと思います。

 ● 第三章はテレザート上陸作戦が始まる直前で幕を引きます。『さらば』のことを考えれば、ここから先はひたすら盛り上がっていくしかないことを皆さんもうご存知のはずです。第四章、第五章、第六章、第七章では一体どこまで行くんだと(笑)。本当に長い一本の映画を体感されることになると思いますので、皆さん最後まで振り落とされないで観てください。

羽原第一章より第二章の方が良かったと言ってくださるファンの方が多くいらっしゃったのがとてもありがたかったんですが、第三章はそれ以上のものができたと思います。そうやってどんどんとヒートアップは今も続いていて、作り終わるまでに命が残っているのかなっていう状況なんですけど(笑)。そのくらい全身全霊を傾けて制作を進めていますので、まずは劇場で「ヤマト」の世界に浸って、クルーと一緒に旅をして頂きたいですね。ちなみに、商品に付くエンディングは劇場版とは毎回異なっているんですけど、第三章は「純愛篇」ということで古代と雪のデートシーンにしてみました。綺麗な背景の中を二人がコスモゼロで飛んでいますので、その辺も楽しみにして頂ければと思います。

羽原信義(はばらのぶよし) PROFILE

1963年生まれ、広島県出身。演出家、監督。『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』にメカニック演出として参加、ディレクターズカット版にてアニメーションディレクターを担当。続く『宇宙戦艦ヤマト2199』では絵コンテ・演出を担当。監督作品に『蒼穹のファフナー EXODUS』などがある。

福井晴敏(ふくいはるとし) PROFILE

1968年生まれ、東京都出身。小説家。著作の映画化作品も多く、近年ではアニメーションや漫画などの原作・脚本に軸足を置いた活動を行っている。主な著作に『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』『人類資金』などがある。

岡 秀樹(おかひでき) PROFILE

1966年生まれ、広島県出身。映画監督。『ウルトラマンダイナ』『ウルトラマンガイア』など多数の特撮作品に参加。『ゴジラVSデストロイア』『モスラ』ではデザインワークスも担当。商業作品での活動の傍ら、自主映画団体「鉄ドン」で自主製作映画を作り続けている。

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