─まずは今回、新たに『宇宙戦艦ヤマト2202』版として主題歌を歌われた感想をお聞かせ下さい。
ささき●今回は最初に『宇宙戦艦ヤマト』主題歌を歌ったときのような感じで歌ってほしいと言われたんです。『宇宙戦艦ヤマト2199』のときには年齢のせいもあってか、ちょっと丸くなったというか、きれいに歌いすぎたかもしれない。
宮川●すべて監督の意向です。第四章以降の展開については、羽原(信義)監督の中に確固たるイメージがあったんです。僕らが知っている『さらば宇宙戦艦ヤマト』とはちょっと違う方向に話が進んでいって、個人とか国家を超えた、もっともっと宇宙全体に広がる大きな愛を謳うような作品になっていくということでした。そのお話を聞いて、僕の解釈というよりも監督のイメージに寄り添う形になるように、若干、楽器を加えるなどして、アレンジし直しました。コアなファンにしかわからないと思うけど(笑)。
ささき●『ヤマト』って、ストーリーがそうだからもしれませんけど、作品のイメージがどうしても重くなってしまうでしょう。それを突き破りたかったのかなと思いました。でもまさか、一から作り直すとは思わなかった。元の曲にちょっと楽器足して、テンポを上げるくらいなのかなって。かなりテンポは上がりましたよね。
宮川●一番違うのはテンポですよね。でも実は、これが最初のテレビとか『宇宙戦艦ヤマト2』のテンポなんですって。それに合わせたんです。
ささき●それを今回は、ちょっと荒っぽさというか、「旅に出て何者かに立ち向かっていくぞ!」という勇壮さを意識して歌いました。
宮川●参加したミュージシャンや合唱の人たちも、今日はささきさんといっしょに仕事したということが嬉しかったんじゃないかな。
─改めて「宇宙戦艦ヤマト」という曲を振り返った感想をお聞かせ下さい。
宮川●これだけ国民的な歌になったということは、やはり阿久悠さんにとっても代表曲だと言っていいんでしょうね。
ささき●阿久悠さんは、子供番組の主題歌も結構やっているんです。でも『ヤマト』は、単純に子供番組というわけじゃなくて、それを超えたものがある。当時見ていた子供たちが大人になっても歌える歌になっているじゃないですか。子供に媚びていなかったんですね。
宮川●そこが西﨑(義展)さんの良いところですよ。
ささき●すべては、西﨑さんが阿久悠さんのところに頼みに行ったところから始まっているわけですからね。やはり、西﨑さんの思い入れというものが感じられますね。
宮川●そうですよ、あの“阿久悠”を動かしたんですから。
ささき●その阿久悠さんの歌詞にお父様の宮川(泰)先生が曲をつけた。まさに才能同士が出会ったということですね。だからこれだけ長く愛される曲になったんでしょう。あの頃、宮川先生は「とにかく元気よくやってほしい!」と言っていました。まずそれがスタジオに入っての第一声だったんですよ。西﨑さんはこの歌詞の裏に「哀愁」とか「ロマン」とか、色々な意味が含まれていると言うんです。ところが宮川先生は「とにかく僕の言う通りにやってくれ。そういうふうに作ってあるんだから」って。
─テレビの初期には、ゆったりとしたテンポで始まるイントロが使われていましたね。
ささき●最初のレコーディングのとき、事前に僕のところに送られてきていた譜面が、シャープ記号の抜けたものだったんです。それに気づいたのがレコーディング当日で。慌てて譜面にシャープ記号を書き込んで、その場で何度か練習してからレコーディングしました。それで最初にレコーディングしたのが、テレビの最初の何話かで使われていた、出だしがスローテンポのものでした。これは西﨑さん、かなりお気に入りだったようです。
宮川●西﨑さんが好きだったのは、マイナーの曲調だったのでしょうね。でも宮川泰という人は、カラッとしたものが好きだったので、あまりマイナーの曲は好きじゃなかった。だから曲全体がマイナーでも、イントロにメジャーを持ってくることで、本人の中ではうまくバランスを取っていたんだと思います。
ささき●一方で西﨑さんの中には、阿久悠さんが書いた歌詞を見たとき、スローなメロディが浮かんだんだと思います。強烈なイメージがあったのでしょうね。そのせいか「哀愁を込めて!」とかやたらと注文が入りました。
宮川●そういう意味では、西﨑さんと宮川泰、ふたりで相補い合っていたのかもしれません。
ささき●スローなバージョンをレコーディングしているとき、宮川先生は何も言わなかったんですが、おなじみのアップテンポの方のレコーディングになったら、やたらと張り切り出しまして。当時はあまり詳しいことはお聞きしませんでしたけど、ヒットメーカーだった先生は、絶対こちらの方が当たるという確信があったのでしょうね。
宮川●あの主題歌は、AメロもBメロもCメロもずっとマイナーで進むんです。でもイントロだけがメジャーなので、すごいコントラストになってるんですよ。
ささき●普通はマイナーの曲にはマイナーのイントロをつけますからね。あのイントロはやはり宮川先生ならではでしょうね。他の人ならもっと違うメロディをつけていたと思いますから。
宮川●しかもイントロのアレンジ曲を、本編の劇伴にも使っている。あのイントロがないと、BGMまでを含めた全体の曲構成が立体的にならない。それだけ気に入ってたんでしょう。
─ささきさんが「宇宙戦艦ヤマト」や「真赤なスカーフ」以外に、もう一度このような形で録り直してみたい曲はありますか?
ささき●「ヤマト!! 新たなる旅立ち」(『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』主題歌)かな。あの曲が好きで、よくコンサートでも歌っているんです。宮川先生もお好きでしたね。
─『さらば』では斉藤始というキャラも演じてられていますね。
ささき●どうもそれまでコンドルのジョーとか、ああいう二枚目ばかりやっていたので、最初に見た時は「これは俺の役じゃないだろう!?」って思ったんですよ。最終的にはかっこいい役でしたけど、斉藤ってああいう外見でしょ。だから「ええっ?」って。
宮川●ささきさんというと、やはりマイケル・ナイト(『ナイトライダー』)みたいな、ああいう役が本来という感じがする。当時中学生でしたけど、僕も斉藤をささきさんが演じていることは気付いたんです。「主題歌を歌っている人だ!」って。でも、ささきさんと斉藤の組み合わせにはミスマッチ感を感じていたのは事実。なんでだろう、そのわけが今わかりました。ご本人がそう思っていたんですね(笑)。
ささき●そうなんですよ。いいキャラだし、いいセリフも喋る。あんな弁慶みたいな死に方もする。でも初対面で(設定画を見ただけでは)そんなことわからないですからね。
─『2202』にぜひ出演していただきたいと思っているファンも多いと思います。
ささき●もう長いことアニメの声の仕事はやってませんからね。『ヤマト』でやるんだったら、本当は艦長の役をやりたかったんですが、別の作品でやってしまっているんですね。艦長といえば、沖田艦長を演じられた納谷(悟朗)さんの芝居にすごく魅せられました。あれだけ多くのキャラクターが出ている中であの声を響かせるんですからね。ああいうシーンではどうしても声を張りたくなってしまうんですが、張ってしまうと逆にあの声じゃなくなってしまうんですよ。うまいなあ、って思いましたね。
─最後に、ささきさんにとっての『ヤマト』とはどのような存在でしょうか?
ささき●もう人生の一部みたいなものですね。こうして新作が作られて、そこにまた呼んでいただけるというのは、まだまだ歌手として期待されているんだなと。『ヤマト』がなかったら、たぶん、「あの人は今」で取り上げられるだけになっていたかもしれません。これだけテレビに出られたのも『ヤマト』のおかげですから。だからまた今回、声をかけていただいたことはすごく嬉しかったですね。
ささきいさお ● PROFILE
1942年生まれ。東京都出身。1960年に「和製プレスリー」のキャッチフレーズでデビュー。1974年『宇宙戦艦ヤマト』の主題歌が大ヒットし、以後、数多くのアニメ・特撮作品の主題歌・挿入歌を担当。また声優としても多数の洋画、アニメで活躍している。主な参加作品に『科学忍者隊ガッチャマン』(コンドルのジョー役)や『ナイトライダー』(マイケル・ナイト役)などがある。
宮川彬良(みやがわあきら) ● PROFILE
1961年生まれ。東京都出身。大学卒業後、劇団四季、東京ディズニーランドのショー音楽で作曲家としてデビュー。その後、数多くのミュージカルなどを手がけるほか、全国各地での演奏活動にも精力的に取り組んでいる。また本作をはじめ、『クインテット』や『宇宙戦艦ヤマト2199』『ひよっこ』など、数多くのテレビ作品、劇場作品でも音楽を担当している。