写真左:鈴村健一さん/写真右:小野大輔さん
─第五章「煉獄篇」まで劇場上映が終わり、いよいよ本日からはTV放送が始まります。現在の心境をお聞かせください。
小野●『宇宙戦艦ヤマト2199』(以下『2199』)の時からずっと旅を続けている感覚で、やっと一つの終着点が見えてきました。このタイミングでTV放送が始まるのは意義深いことです。ヤマト世代の方々が、あの時の記憶を甦らせるかのように『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下『2202』)に熱狂してくれています。TV放送は、その熱狂が何なのかということを次の世代に伝えるためにあると思っています。クライマックスへの盛り上がりと新たなヤマトファンへのアプローチを同時にできるのはとても意味があることだと思います。「ヤマト」に関わる一人のクルーとして嬉しいです。
鈴村●昔の「ヤマト」は劇場でムーブメントが起きたアニメ映画の一つの金字塔なので、「ヤマト」を象徴する劇場で上映されていることは凄く意味があることだと思います。ただ、それと同時にTVでやっていた「ヤマト」を好きな方もたくさんいるので、TVで人気が出て劇場に繋がった以前の「ヤマト」と逆のことをやっているのは面白いなと『2199』の時に思いました。今回も同じ形式なのかなと予想していたので、個人的には早くTV放送もやって欲しいなと思っていました(笑)。大きいムーブメントがTVでも劇場でも起きる相乗効果が面白いですからね。あれ、小野くんはTV放送があることを知らなかったの?
小野●いつやるんだろうと思っていました。
鈴村●確かに僕もいつやるかは知らなかった(笑)。でも、良いタイミングですよね。劇場上映もまだ途中という時にTV放送が始まるのは凄いことだなと思います。
小野●それにしても今回も思った以上に旅が長くなっているじゃないですか。『2199』の時も2クールを1年半から2年くらいかけて録っているんですよね。
鈴村●そんな収録の仕方をしているアニメはほとんどないよね。
小野●ないですね。だから、TVで毎週見られるようになるっていう感覚にどうしても慣れなくて(笑)。
鈴村●劇場で上映することを想定して収録していますし、ご覧頂いた方は分かると思いますが、絵も緻密に描かれています。劇場で上映されるクオリティのアニメがTVで見られるのは凄いことだと思いますね。TVシリーズを先にやって、そのご褒美的に劇場アニメ化っていうのが今までのお決まりのパターンだったので、僕が知る限りでは『2199』が始めたやり方です。その斬新な方法を見つけた「ヤマト」は、昔と変わらず常にパイオニアなんだろうなと思います。
─前作『2199』から続いて演じられている古代進と島大介。3年という月日はそれぞれのキャラクターに何か変化をもたらしましたか?
小野●何も変わることはないですね。一貫して思っているのは、これから起こることのために感情を用意するのではなくて、この先に何があるのか分からないけど自分のできるベストを尽くすことです。それが役を演じる心構えでもあり、古代のメンタリティにもリンクするんじゃないかなと思っています。偉大な作品なので先に情報を得たいという気持ちもあったんですけど、それは最小限に留めておいて、その場で生まれる熱量を大切にしました。あとはやっぱり古代は迷うので(笑)、自分もリアルに迷いながら決断をしていきたいなと思って、役にアプローチしていました。
鈴村●古代が物語の芯として絶対にブレてはいけない立場にいて、島はそれ以上により明確な意志を持って彼を支える立ち位置にいます。『2199』よりも『2202』の方が引いている感じがしますね。『2199』の時は古代を支えているという面がもっと強く出ていたと思うんですけど、『2202』では古代が艦長代理としてより強くなっていったので、航海長の島はそのことを理解し尊重してあげているのかなと思います。そういう信頼関係がセリフのないところで描かれるので、僕の出番は少ないんですが(笑)。台本のト書きには古代に対する島のエールが書かれていて、絵はそれを目線だけで芝居させる“これぞアニメーションだ!”という演出になっているんですけど、僕はそこに全く関わることができないという一抹の寂しさはあります。ただ、その間を読んで出てくるセリフはきちんと重いセリフになっているし、島がよく言う「ワープ!」にも毎回違った意味があります。心に余裕がある時と大ピンチの時で違いますし、「古代が決断した末のワープ」みたいに色々な「ワープ!」があるので、絵や台本のト書きからヒントを得て一生懸命構築しています。島は喋らない分、演じるのは難しいですね。
小野●羽原(信義)監督の演出方法だと思うんですけど、ダイナミックに寄るところは寄りつつ、心理描写は絵だけで表現することがあります。吉田(知弘)音響監督も極力アドリブを録らない方で、完成版を見ると必要ないことが分かるんです。
鈴村●アニメーションはそうあるべきですよね。旧作「ヤマト」は子供向けだったアニメで大人の心理描写を描いたことが評価された作品なので、影響を受けた羽原監督もそこを丁寧にやられているんだろうなと。その分、島のセリフは少なくなっていますけど、ほぼほぼ毎週出ているのでTV放送をご覧頂きたいですね(笑)。
小野●改めて、「あっ、島いる!」ってTV放送を楽しみたいですよね(笑)。
鈴村●島をウォーリーみたいにするの、止めてもらっていい(笑)。
─完成された作品を見ると、島は存在を一話毎にしっかりアピールしていますよね。
鈴村●アフレコ現場ではセリフが少ないので、隣にいる神谷(浩史)くんは “ワープマン”やら“ワープ要員”だの僕のことを茶化していますけど(笑)。完成されたフィルムを見ると島は存在感がしっかりありますよ。あまり仕事をしていないのに良いキャラクターを演じてしまって、申し訳ない気持ちになります(笑)。
小野●鈴村さんが現場にいてくれるのは僕にとって大事な要素ですね。ベテランが勢揃いしているあの空間に一人ではいられないですから(笑)。
鈴村●『2199』の時は青春群像劇だったけど、『2202』は政治劇の要素が強いからベテランに囲まれる率が高いよね。
小野●ベテランの方々が現場にたくさんいる中、神谷さんにイジられる鈴村さんがいてくれるのは本当に助かります。ベテランの方としっかりお仕事をご一緒する機会がこれまであまりなかったので、自分にとっては新鮮でもあり緊張する現場です。鈴村さんと話している流れの中でベテランの方と気さくに会話することができるので、現場の雰囲気を上げてくれる人は鈴村さんだと思っています。おかげで(大塚)芳忠さんとも仲良くなれましたから(笑)。役柄的にも島がいないと古代はきっとダメだと思います。見てくださる方に二人のセリフではないところの絆や信頼関係を感じ取って頂けると嬉しいです。
─今回の『2202』のアフレコ収録で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
鈴村●神谷くんが入ってきたのはすごく劇的な変化で、現場の雰囲気が全く変わりました。
小野●キーマンは謎が多い役なので、福井さんや羽原監督とディスカッションを何度もして情報を得ていましたね。神谷さんは「これから何が起こるのか全部知りたい」と仰っていたので、僕のアプローチとは真逆。それが凄く新鮮でした。
鈴村●僕も小野くんと同じタイプで先のことを聞かず、脚本から読み解くのを大事にしています。ただ、その流れでご飯を食べに行きましょうとなると、なぜか行くのは福井さんと羽原監督と神谷くんと僕の4人なんです(笑)。
小野●いいな〜っていつも思っています(笑)。
鈴村●小野くんは主役だから収録後もぶら下がりの取材などが入っていて行けないんですよ(笑)。
─原作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』(以下『さらば』)にはいないキーマンという新キャラクターについてはいかがですか?
鈴村●ガミラスと同盟を結んでいて、キーマンが暗躍するところから物語が始まるので、一体どうなっちゃうんだろうと思いました。序盤は世界観が丁寧に描かれていて、以前の「ヤマト」とは全く違う空気感です。基本は『さらば』の流れを踏襲しつつもそこに生じてくるズレが、後々大きくなって見えてくるところが仕掛けになっています。その鍵を握っているのはキーマンですね。
小野●『2199』でもそうでしたけど、デスラーとの直接の会話は実はあるようでないんですよ。だから、ガミラスのことをよく理解してはいないんですけど、古代の中には“俺たちは異星人とも分かり合える”という考え方があります。キーマンは文字通り重要な人物なんですけど、とにかく態度が悪い(笑)。キツイ言い方をするし、物の見方が地球人とは違うので、古代はそこに反発している部分があるんですよね。絶えずアプローチをしてくるキーマンとのコミュニケーションで生まれる古代の葛藤は、演じていてよく分かります。キーマンの存在は、古代が異星人との関わりについて深く考えるきっかけになっていると思います。
─TV放送用のメインビジュアルは本作のもとになっている『さらば』にオマージュを捧げたものです。ご覧になった感想をお聞かせください。
鈴村●あいつら(古代と雪)、どこ見てんだ?
小野●まず、そこですか(笑)。「愛の戦士たち」というタイトルが入っていて、この二人がメインビジュアルにいることにグッときますね。『2202』が始まる前に福井さんから「彼らにとっては愛を試される辛い旅になります」と言われたことを思い出すと、なんだか泣けてきますね(笑)。
─『2202』の中で、古代と島の印象的なシーンがあればお聞かせください。
鈴村●島が「ヤマト」に乗るか乗らないかを決断するシーンですね。『2199』で一緒に旅をした二人の想いがズレていることは大きかったと思います。結果として、古代の想いを汲んだ島は「ヤマト」に乗艦することになるんですけど、あのシーンは古代でなければ乗らないですね。普通に考えると社会人としてあるまじき行為なので(笑)。組織において守らなければいけない絶対的なルールがあるはずなんですけど、助けに行かなければいけないっていうことだけを信じて行く人たちには、“ちょっと待って、冷静になろうよ”って(笑)。確証もなければ、自分たちが何をできるのかの裏付けもない中で、島が冷静に反対意見を述べるのは正しいはずなんですよ。それでも理屈を超えて「ヤマト」に乗る決断を下した島は、古代の情熱からくる行動力や、悩みに悩むけどやる時はやる有言実行な人間性を信じたんだと思います。それが地球連邦軍の方にまで浸透していないから彼は出世していませんけど(笑)、自分の手が届く範囲の人たちを幸せにする力を持っているんですよね。組織における立ち位置と、一個人が何かをやった時の人への影響の与え方を島は天秤に掛けて、大いなる和「ヤマト」を大事にした結果として船に乗ったんだろうなと思います。全て言葉にすると薄っぺらくなってしまうので、「あとは任せろ」とだけ言って乗り込む島はやっぱり男前だなと。あそこで二人の確かな絆を描いているので、その後はわざわざ強調するようなエピソードを盛り込まなくても、見ている人に伝わるようになっているのが今回の演出なんだなと僕は捉えています。
小野●島のような友達が欲しいですね(笑)。言葉ではなく、お互いが相手のためを思って尽くしたり、「ヤマト」はそういう想いで繋がっている艦なんだと思います。ただ艦乗りの血が騒いだ部分もあるんじゃないかと思いますけど(笑)、お父さんと弟の描写が出てくるように、島の行動原理は家族だと思うんですよ。テレサに見せられるビジョンもそうですけど、本当に深い愛だなと思います。一方の古代は好きな女の事しか見ていないんですけど(笑)。ただ、旅立つ時はその愛する人を置き去りにしてでも行こうとしていますから。そこで島が「森くんのことはどうするんだ!」と古代を止めますけど、それを言ってくれる友達ってなかなかいないと思います。あのシーンの島の古代への想い、あのセリフは凄くズシッときました。僕は自分の親友に同じ事を言えるんだろうかと思いました。島はいい奴だなって…。
鈴村●今回の島は言葉数少ないですけど、いい事を言うよね(笑)。
─お二人がオススメするTV放送ならではの楽しみ方はありますか?
小野●TV放送は週一の2クール、劇場での上映をその都度その都度楽しみにして待っていた人とはまた違ったテンポで見られるので、もしかしたら贅沢な見方かもしれないですね。
鈴村●劇場ではポップコーンくらいしか食べられなかったと思いますけど、家ではお酒とつまみを楽しみながら見られますからね(笑)。
小野●パーティーしたいですね(笑)。
鈴村●皆で“俺たちはヤマトクルーだ”なんて言って、佐渡先生ばりにお酒を飲みながら「ヤマト」を見るのがオススメです(笑)。
─では最後に、TV放送を楽しみにしているヤマトファンへメッセージをお願いします。
鈴村●劇場に足を運べなかった方もたくさんいると思います。今回は、劇場で上映されたものと全く同じクオリティのものがTVで見られますので、ぜひ楽しんで頂きたいです。『2199』を見ていない方が『2202』から見てもしっかりと理解できる作りになっています。その上で『2199』を見直すこともできますので、ぜひこの機会に「ヤマト」の世界にたっぷりと触れて頂ければと思います。
小野●皆さんお待たせいたしました。遂にTV放送が始まります。このクオリティのアニメ作品を毎週TVで見られる喜びは、感無量と言ってもいいですね。前作『2199』から続いてきた『2202』を今の時代にやっているのは、日本のTVアニメの金字塔である『宇宙戦艦ヤマト』を次の世代に語り継いでいくという使命を担っているからだと思っています。このTV放送をきっかけにして、新たに「ヤマト」を知ってくださる方、また改めて「ヤマト」を好きになってくれる方がたくさんいると思います。この艦に乗る人を増やしていって次の世代に「ヤマト」が持っている普遍の魅力、愛を伝えていければと思っています。老若男女問わず家族皆さんで見て、「ヤマト」の素晴らしさに気付いて頂けたら嬉しいです。
小野大輔(おのだいすけ)● PROFILE
5月4日生まれ。高知県出身。主な出演作に『黒執事』セバスチャン・ミカエリス役、『進撃の巨人』エルヴィン・スミス役、『ジョジョの奇妙な冒険』空条承太郎役、『おそ松さん』松野十四松役などがある。その他、『glee/グリー』や『GOTHAM/ゴッサム』の吹替えや音楽活動など、多岐に渡って活躍している。
鈴村健一(すずむらけんいち)● PROFILE
9月12日生まれ。大阪府出身。主な出演作に『銀魂』沖田総悟役、『おそ松さん』(イヤミ)、『銀河英雄伝説 Die Neue These 邂逅』(ヤン・ウェンリー)、『キャプテン翼』(若林源三)、などがある。声優だけでなく、歌手、ラジオパーソナリティ、舞台劇「AD-LIVE」の総合プロデューサーなど、多岐に渡って活躍している。