宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

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スタッフインタビュー 第三章「純愛篇」音楽●宮川彬良

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─お父様の宮川泰さんが『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの音楽を手掛けていらっしゃいましたが、宮川さんにとって「ヤマト」、またその音楽はどういう存在ですか?

宮川紛れもなく最初のお客さんだったね。『宇宙戦艦ヤマト』のオンエア(1974年10月6日放送の第1話)を観て、すぐに作品の虜になって、翌日学校に行ったら、同学年では自分を含めて3人しか観てなくて、その団結感で同士みたいになっちゃって(笑)。僕にとって憧れだったけど、それと同時に違和感もあって、特にエンディングテーマの「真赤なスカーフ」。オープニングからずっと格好良かったのに、急に懐メロが流れてきたからすごく古臭く感じて、「お父さん、これはないよ」って中学生の頃は思っちゃって(笑)。当時は歌謡史が逆戻りしたような感覚で、そっちに行くのかという意外性の方が強かったかな。ただ、それも自分が大人になって、こういう要求があって作ったのかなという背景が分かるようになり、単純に良い歌だなと感じられるようになってきたね。

─その「ヤマト」の音楽を学生の時に何作品か手掛けていらっしゃいました。当時はどのような心境でしたか?

宮川ヒヨっ子作曲家だった学生の僕を「お前、ちょっと一曲やってみる?」とお父さんが誘ってくれて、書き始めたのが始まりで。確か『ヤマトよ永遠に』(1980年公開)の頃だったかな…当時は猫の手も借りたいような雰囲気だったからね(笑)。それで憧れから今度は生徒になって、お父さんから愛の鞭を受け、その中でお父さんのボキャブラリーの中にはなかった音楽が僕から出てきた時はすごく喜んでくれたね。親にとってみれば、音楽が好きとはいえ、僕に才能があるのかどうかは分からなかった訳だから、「こいつ、ちょっと面白いぞ」と思ってもらえた登竜門でもあったかな。その後は音楽そのものの方に興味が出てきたから、僕自身がアニメにあまり興味がなくなっちゃって、「ヤマト」の音楽から離れていくんだけど。だから、日本アニメの歴史を作った『機動戦士ガンダム』やジブリ作品ですら全く観てないんだよね(笑)。『ルパン三世』も緑のジャケットの頃(TV第1シリーズ)は大ファンだったんだけど、赤いジャケットになった瞬間になぜか全く興味がなくなっちゃって。どうやら登場人物たちの周りだけで完結するローカルな話になっちゃうと、自分とは関係のない話だと感じて冷めちゃうみたいで(笑)。

─そこから30年以上が経ち、『宇宙戦艦ヤマト2199』(2012年公開)で再び音楽を担当された訳ですが、なぜ引き受けようと思われたのですか?

宮川実は、最初は断るつもりだった。出渕(裕)総監督をはじめとする制作陣に、「あんたたち、まだ凝りてないの?」と安易なリメイクに対する本心を会って伝えてやろうと思っていたら、僕が言い終わる前に出渕さんが握手をしてきて全く同意見だと言われてしまって。出渕さんに「最初の26本を現代の技術や解釈で演出し直して再現したい。当時の音楽だけでやりたいくらいだけど、新しい音楽が必要になるから、ぜひ力を貸してくれ」と男らしく頼まれたら、もう断れないよね。自分と同じように感じていた人がいて、その人にこんな風に言われたら断れる訳がないし、逆に物凄く燃えちゃったね(笑)。

─そして、その続編となる『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』(以下『2202』)ですが、本作の楽曲を制作する上で心掛けたことは何かありますか?

宮川出渕さんとやっていた時は、音楽的に空白のシーンを最初からいくつか提示されて、オリジナルの曲を作っていたんだけど。そうなるとガミラス側の音楽がやっぱり乏しいから、ガミラスの国歌や士官候補生たちの学生歌を作ろうという話がまずあって、その一方で物語の中心となる若きヤマトクルーたちのテーマ曲が欲しいという意見もあって、音楽がないところを埋めていくという形で理論的に組み立てていったんだよね。でも、今回は僕と音響監督の吉田(知弘)さんで考えてくださいという雰囲気だったからそういう打ち合わせはしなかった。それよりも、パイプオルガンの曲「白色彗星」(『2202』のリメイク元となる『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の代表曲)をどうするかという大きな問題があったからね。もちろん「ヤマト」のテーマのメロディーや、ささきいさおさんの歌も「ヤマト」という概念の一番大事な骨組みとして残っているんだけど、あの曲はあまりに圧倒的にみんなの脳裏にこびり付いているんだよね。映画の冒頭で、生まれ育ちや歴史や思想なんかが全く分からない新しい敵(ガトランティス)が突然現れる。僕から言わせると、物語は途中から始まっているんだけど、その時に「デスラー以外にもっとすごい奴がいるのか!」というような驚きや違和感を観客に感じさせなければいけないし、且つ「ヤマト」という作品の持つ重厚さを崩してもいけない。そこで、教会音楽に使われるパイプオルガン、僕からするとバッハのような(笑)。それは「ヤマト」のテーマに対し、メロディーやジャンルで違いを出して印象付けるというような概念ではなくて、スタジオには絶対にないパイプオルガンという楽器そのものの存在感や違和感。そこに気が付いて、試行錯誤しながら実際に演奏したその閃きの大胆さには引っくり返るよね。それをどうするかというのが大命題としてあったから、まずはなぜ「白色彗星」はパイプオルガンで演奏されているのかを一から考えて整理したんだけど、結果的にはもう一度パイプオルガンを収録しようという話になった。さらに、パイプオルガンを使った他の曲も作ろうという話に発展して、何曲か収録はしているんだけど、どこで使われるかは吉田さんの采配になるかな(笑)。例えば、エレキギターを使うというような自分の趣味嗜好で新鮮味を出す気は毛頭なかったから、受け継ぎつつもう一度解釈して、そこに辿り着くまで半年くらい考えたんだけどね。外野はそのことに薄々気付いて、パイプオルガンの手配をどうするかって騒いでいたけど、こっちとしては心配しないでいいから全部任せてくださいっていう感じだったね(笑)。

─劇伴の2回目の収録が8月に行われたとお伺いしましたが、収録はいかがでしたか?

宮川収録1回目の時は、お父さんが作った『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の楽曲を全て耳コピして譜面に起こして、こういう狙いがあったのかなとか、こうした方がもっといいよねとか、色々と解きほぐしていったんだけど。それをやることでお父さんの頑張りや作曲家として上り調子だった当時の熱い気持ちが譜面から立ち上がってきて、大いに感動したし、その多才ぶりには本当に頭が下がる想いだったよ。収録2回目の時は、このまま頼まれた曲を書くだけじゃマズイかなと思って。(製作総指揮の)西﨑彰司さんは音楽についても新しい風を吹かせたいっていう希望があるみたいで、そこをまだクリアしていないと思ったから、ちょっとジタバタしようと思ったんだよね。思い返してみると、僕は学生時代に「ヤマト」の引力に引かれて仕事を手伝わされ、その時に悔しくて泣いたり、褒められて有頂天になったりと、ジタバタしながらも色々と学習していた。その一方で、お父さんも若い僕から刺激を受けたり、あるいは未熟さを指摘して優越感に浸ることもあったと思うんだけどね(笑)。泣いたり悔しがったり有頂天になったり、色々なことを思いながら一緒に作ってきたんだよね。僕みたいな当時ロックをやりたくてしかたなかった新参者が参加するなんて無駄なことかと思えるんだけど、自分なりに「ヤマト」とロックの接点を探り出して書いて、それが使える曲なのかは誰にも分からなかった。でも、実際に書いてから20年くらい放っとかれた曲を吉田さんが気に入ってくれて、後に『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』(2009年公開)で使われたことがあって、それには僕もビックリしたし、若い頃の曲だったから恥ずかしかったんだけどね(笑)。つまり、実験しなきゃ「ヤマト」じゃないってこと。自分を試す実験でもあり、音楽的な実験でもある。それで今回は頼まれてもいない曲を書いたんだよね(笑)。注文されたものをゆるく解釈してここに使えるかなと考えた曲をスマホで録って、吉田さんたちに意見をもらいながらも、収録は絶対にすると決めていたんだけどね(笑)。そういうクリエイティブの余白みたいなものを残したくて、言われたもののみただ作っていく作業にだけは絶対にしたくなかった。若い人の力を借りる時がいずれ来るかもしれないけど、お父さんと一緒に一喜一憂して格闘しながら作っていたあの頃のように、まずは自分でジタバタしてみようと。そこで、収録の時にみんなが様々な反応を見せてくれて、吉田さんは「絶対どこかで使えるから楽しみにしていてください」と言ってくれたんだけどね。実際にどうなるかは分からないけど(笑)。

─第一章「嚆矢篇」から第二章「発進篇」までの中で、自身のお気に入りの楽曲があればお教えください。

宮川オリジナルの部分はまだほとんど出てきてないんだけど、加藤翼のシーンで流れる切ない感じのメロディーは好きだな。悲しいとか孤独な感じが自分で得意だと思い込んでいて、やっぱりいいなと思ったし、まさに自分の曲という感じがするんだよね。

─音楽は、アニメ作品にとってどのような役割や効果を担っているとお考えですか?

宮川ここ1年で自分の中の捉え方や考えが変わってきているからまだハッキリとは分からないんだけど、劇伴ってすごく進歩していたんだなという感覚はある。ドラマやアニメを昔よりは観るようになったから、みんな上手に書いているなと思う半面、相変わらずメロディーがないなとも感じるね。その点「ヤマト」は特別だよね。戦闘シーンに始まり、悲しくても楽しくても勇ましくても寂しくても、全部メロディー。世間的にリズムだけの曲はまだまだ多くて、ずっと予告編を観ているような感じがするね。でも、この質問に対する答えはあと数年待って欲しいかな、『2202』が完成する時にもう少し語れると思うな。

─最後に、「ヤマト」シリーズのファンに向けて、一言メッセージをお願いします。

宮川僕よりも遥かに詳しいファンの方に言えるようなことは何もないんだけど、僕は僕の「ヤマト」を信じてやっているけど違ったらごめんね(笑)。音楽の面でジタバタしているところを楽しんでください。

宮川彬良(みやがわあきら) PROFILE

1961年生まれ、東京都出身。作曲家・舞台音楽家。数多くのミュージカルなどを手掛ける一方で、演奏活動にも精力的に取り組んでいる。父は『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの音楽を手掛けた作曲家の宮川泰。『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』では、前作『宇宙戦艦ヤマト2199』に続き音楽を担当している。

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