宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち

SPECIAL

「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202」宮川彬良インタビュー

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▲宮川彬良さん(写真協力/ホビージャパン 撮影/スタジオR)

─まずは今回の「交響組曲」を作る切っ掛けを教えてください。

 2019年10月に開催された「『宇宙戦艦ヤマト2202』コンサート2019」で「作ります」って言っちゃった手前作らざるを得なくなったというのが切っ掛けとも言えるかな。けどそれは、もう戻れない状態にしないと書けないぐらい怖いっていうか、チャレンジングなことだとずっと思ってたから宣言したわけです。言わせた自分と言われた自分が二人いるみたいな感覚なんですけどね。
 それこそ父(宮川泰)の「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」(1977年発売)を最初に聴いた時もそうでした。単純に言うとね「これだ」と思ったんです。ちょうど僕がクラシックの勉強を始めた頃だったので、歌謡曲の3分間の世界とか、劇伴だって長くて4分、1分半とかも多いんですよね。そんな音楽のベースにクラシック…。交響曲だと1曲聴くのに40分ぐらい掛かるじゃないですか。そういう音楽がベースにあるんだっていう勉強を始めた頃にあれを聴いたんで「これだ」って、ピンと来たんです。
 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」は45分ぐらいだと思ったけど、そういう作品が、現代的な、しかも格好良いアニメの音楽で、どことなく全部聞き覚えのある曲で、新たに生まれたっていうのは、やっぱり僕にとって凄くいいなあと言うか、まさにこういうものを目指したいと思えるようなものでした。
 と同時に、その頃はプログレッシブ・ロックっていうのが流行っていて、そんな人たちの考え方とも合致していたんです。ピンク・フロイドにしろELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)にしろ、彼らのレコードは1枚で1曲。少なくともA面で1曲、B面で1曲ですよね。何曲かに分かれている場合もあるけど、トータルで聴いてくれっていうのがひしひしと感じられるものだったんです。そこで「やっぱりそうだよな。こういうものを作んなきゃいかんよな」と。「作れ」と言われたわけじゃないけど、いつかこういうものを作らなきゃいけないとはそこでもうすでに思い始めていたに違いないんです。

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「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202」CD
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─あの宣言の時には、リリース時期も決まっていたんでしょうか?

 いいえ全然。とりあえず、「交響組曲」を作り、そこから『ヤマト2205』の制作に入らないか、という話でした。それで2020年6月に交響組曲を録音する予定をしていたんです。そうしたら、新型コロナウイルス感染症の拡大もあって、それ以降の予定が全て流れたんです。
 仕事という仕事が、もちろんレコーディングも出来ない。たまたま僕は2月にやる予定だったミュージカル『天保十二年のシェイクスピア』の仕事が全部一段落ついたところだったんだけど、公演も中止になってしまったから目の前に何もなかった。ということは、自分が書きたいものを書くしかない。それで「これは書けということだな」と意を決して。『2202』のビデオを7巻分観るところから始めて、スケッチを取り、スコアを書いていきました。最後の終止線を書くまで綺麗に100日。この状況でなかったら、これは出来てなかったよね。まったく別のものになっていると思います。

─じっくり集中できたんですね。

 あとは、父が作った最初の「交響組曲」が、どうやって作られていたのかなって改めて勉強をするところもありました。あのレコードは、やんちゃに色々やっているんですよ。木村好夫さんが泣きのギターを…。美空ひばりさんの相棒ですよ。その人がメロディだけ弾いているとか。「真赤なスカーフ」がサンバになっちゃうとか。劇中にはなかった曲が出てくるとか。かなり自由に作られたんだなと。それなのにB面の「イスカンダル」になると、涙が出てくる。「やっと着いたんだ」って。おかしいよね。だって(ストーリーの)順番通りじゃないんだよ。そこからまたランブル(ramble:混ぜこぜ)が始まるわけ。それはアニメの全26話とは違う、脳内再生劇もどきみたいなものが音楽にはあってね、音楽の時間で進んでいくの。わずか45分なんだけど、全26話観たような気がしたんだよね。

─ということは今回も。

 まさに、交響組曲というものでしか表現できない何かがあるはずだっていうことが僕のチャレンジであり、それは父親や西﨑(義展)さんたちに対する敬意と言うか、「あなた達が作った文化ですよね」っていう思いもありますね。

─今回の「交響組曲」にはタイトルに『2202』と入っていますが。『2199』の時点では作れなかったのでしょうか?

 あの時点で作ったとしたら、父が作ったものに衣をつけて揚げたようなものしかできないですよ(笑)。例えば「ガミラス国歌」がちょっと入ったとかね。あと、やっぱり発想が自由には湧かないですよね。全然要素が足りないというか、湧き出てくる要素でないといけないわけでしょ。だって宮川泰と同じことがやりたいわけですよ。簡単に言うと同じシステムで、同じプロセスを体感したい。でないと嘘じゃないですか。
 言うなれば、ベートーヴェンと同じプロセスで作曲したいんです。だからクラシックを勉強してる。和声学から対位法から全部勉強するのは、モーツァルトやベートーヴェンみたいに作曲したいからです。彼らと同じようなプロセスで自分の曲を作りたいから。『ヤマト』の交響組曲に関してもまったく同じなんです。

─『2199』の時点ではまだ、その要素が足りない。

 全然。薄いものか短かいものしか。結局のところ今までと変わらない、劇伴の編集がちょっと違う並べ直しにしかならなかったでしょうね。それは、みなさんが作っているのと同じ、たんなるプレイリストですよ。
 『星巡る方舟』も良かったですね。そこで僕はやっと解き放たれたんです。白色彗星が太鼓叩いちゃうんだもん(笑)。あそこで「もうちょっと行けるかも」と思っいました。『2202』を経て、楽曲も充実して…。掴まる場所があれば、あとは埋められる、父の要素と自分の要素をミックスしたものを繋げる…。ここまで来ればそれができる。だから「(交響組曲を)書くんだったら今だよな」って思ったのが『2202』だったってことですよね。

─最後に、この「交響組曲」を心待ちにしているみなさんへ、メッセージをお願いします。

 まずは、七章を通して聴いてください。好きなところを何度も聴いてくれるのは結構ですが、最低1回は頭から最後まで通して聴いてください。交響組曲はこれで1曲です(笑)。
 それから、これはアニメの劇伴ではなくて音楽が主の作品です。これを聴いた人は、『ヤマト』以外のコンサートにも来てください。堂々とブラームスの交響曲を聴きに行く権利がある。行って恥ずかしくない。僕らがそうだったように。だって「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」しか聞いたことないけど、クラシックファンだって言う奴、結構いたんだから(笑)。とりあえず俺がこんだけ手塩にかけた「交響組曲」を聴いたんだからそれを是非お願いしたいな。これは僕の願いでみなさんの義務ではないけど、そこで次の何かを求めて欲しい。音楽という旗の下で集まろうよ。

※「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト2202」ブックレット内掲載のロングインタビューより抜粋
インタビュー/文:小林 治

宮川彬良(みやがわあきら)  PROFILE

1961年生まれ、東京都出身。作曲家・舞台音楽家。数多くのミュージカルなどを手掛ける一方で、演奏活動にも精力的に取り組んでいる。父は『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの音楽を手掛けた作曲家の宮川泰。『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』では、前作『宇宙戦艦ヤマト2199』に続き音楽を担当している。

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